エネルギー機器構造物における破壊・破損現象の「物理化学」を解明し,材料・機器の経年的劣化事象を先見的に予知・予測し,国際的協力のもとに世界的に高水準の安全・安心な社会基盤の構築に貢献する.
資源のない我が国においてはエネルギーセキュリティーは大きな課題であり,地球温暖化への対応も含めて,長期的なエ ネルギー政策のもとに多様なエネルギーが想定されている.複雑な巨大システムの健全性は,十分な先見的潜在リスクの思考的顕在化を常に繰り返し更新することにより始めて実現される.本研究室では,多様な環境下で供用されているエネルギー機器構造物の経年的劣化事象を先見的に予知・予測し,潜在リスクの最小化と長期的な信頼性向上のための学術研究,「破壊の物理化学」を国際的連携のもとに推進している.
軽水炉冷却材である高温高圧水環境下における応力腐食割れなどの環境助長割れのメカニズム研究に基づく長期的耐久性を保証する次世代材料開発の基盤となる研究を推進している.アプローチとして,上記環境下における合金の酸化挙動ならびにき裂進展速度の高精度な実測などの実験手法に加え,分子動力学法などのナノスケール解析,3 次元有限要素法による微小き裂進展挙動のシミュレーションといった数値解析を用いることで,環境助長割れ機構に関しての総合的な研究を行っている.
ステンレス鋼やニッケル基合金などのエネルギープラント用構造材料の長期信頼性の評価に関する研究を推進し,実プラントでの損傷挙動の定量的かつ正確な予測手法の確立を目指している.特に原子力発電プラントの経年劣化に関しては,実機構造部材( 配管等) を模擬した円筒形状の試験片を用いた実機応力状態に近い条件下でのき裂進展試験や溶接部での進展挙動特性の調査により割れ進展予測モデルやき裂進展速度線図の実機構造体への適用性に関する研究を行っている.
軽水炉発電設備の高経年化における未経験事象・潜在事象の抽出には,過去の事象の詳細な分析による帰納的予知・予測と,基礎科学に基づく劣化メカニズムの解明による演繹的予知・予測が必要である.未経験事象並びに潜在的経年劣化メカニズム並びに事象の予知・予測を目指し,世界的専門家を招聘し,『共通課題』並びに『個別課題』 について,専門家の知の連鎖並びに融合を促進するための専門家会議を主宰し,集中的な討議を通して具体的な課題抽出を行っている.特に経年劣化事象の中でも新たな事象・メカニズム並びに連成現象や連鎖事象の抽出に大きな力点を置いて討議が進められている.